はじめに

日本の金融市場は今、「貯蓄から投資へ」という大きな転換期を迎えています。この波の中で、伝統的な投資商品では満たしきれない新たなニーズに応える存在として、CFD(差金決済取引)の存在感が高まっています。CFDの普及は個人投資家のポートフォリオ戦略を多様化するだけでなく、そのスプレッド収入やファンディングコストを通じて、金融機関に安定した新たな収益を供給する可能性を秘めています。

1.CFDとは

CFDは「Contract for Difference」の略で、差金決済取引を意味します。差金決済取引とは、金融商品の現物の受け渡しを行わず、売買によって生じた価格の差額のみを決済する取引です。

CFDは仕組み上、FX(外国為替証拠金取引)と非常に似ています。主な違いは、その対象資産の多様性にあります。FXは外国為替のみを対象とするのに対し、CFDは従来の株価指数(日経平均株価など)やコモディティ(金や原油など)、個別株などに加え、近年では暗号資産(仮想通貨)といった新たな分野にも投資対象を広げています。これにより、CFDを利用することで、一つのプラットフォームから多種多様な資産に投資できるというメリットがあります。

CFDには取引所CFDと店頭CFDの2種類があります。取引所CFDは証券取引所などの公的市場で取引される商品であり、国内では東京金融取引所に上場している「くりっく株365」がこれに該当します。

「くりっく株365」では、複数のマーケットメイカーの競争により、投資家にとって最良の価格が選ばれる仕組みになっています。一方、店頭CFDは、業者が直接取引相手となる非取引所取引であり、投資家は個別のCFD取扱業者が設定した価格で相対的に売買します。近年ではCFDの取引金額も増加傾向にあり、日本証券業協会が公開した店頭CFDの、東京金融取引所が公開しているくりっく株365の取引状況によると、2020年以降、増加のトレンドが見えてきます。

出所:日本証券業協会「店頭CFD取引状況」より著者作成

出所:東京金融取引所の公表データより著者作成

図1は店頭CFD、図2は取引所CFDの取引数量の推移を示しており、相場変動によって大きく上下しながらも、2020年以降は取引量が増加傾向にあることがわかります。

2.CFDの特徴

次に、CFDの特徴をいくつか紹介します。

■24時間取引可能

CFDは日本株式のように日中しか取引できないということはなく夜間取引も可能です。昼間に仕事をしている社会人でも投資の時間を確保でき、自身の生活リズムに合わせて取引ができる点は大きなメリットです。

日本に限らず世界中の市場の開場時間に縛られることもありません。

■豊富な投資対象

対象商品には株式、株価指数、コモディティ、外国為替、債券、ETF、暗号資産など多岐にわたります。複数の商品を取引する場合、複数の金融機関で口座開設が必要となることもあります。

また、同一金融機関内でも商品ごとに取引口座の開設に審査があることが多く、複数回の手続きが必要となる場合もあります。CFDではCFD口座を開設すればオールインワンで様々な商品が取引可能になります。ただし、金融機関によってもCFDの取扱商品が異なるので注意が必要です。

■売り(ショート)から入れる

現物株式であれば価格が上がらなければ利益を得られませんが、CFDでは市場の価格が下がると予想した場合、ショート(売り)ポジションを持つことで利益を狙えます。これは現物資産にはない大きなメリットであり、投資の自由度を大きく高めます。

また、現物の株式やETFを保有している場合、それらが値下がりしたときの損失をヘッジするために、CFDで同じ銘柄や株価指数を売りから取引することができます。現物株で含み損が発生しても、CFDの売りポジションで利益が出れば、全体の損失を相殺または軽減できます。ただし、予想と反対に価格が上昇した場合には損失が発生します。

こういったリスクコントロールにも活用できるのがCFDの強みです。

■資金効率の優位性

CFDには資金効率の優位性があります。手元の資金(証拠金)を担保に、その数倍から数十倍に相当する大きな金額の取引を行うことができます。この仕組みを利用して、レバレッジ(てこの原理)を効かせた取引を行うことができます。取引に必要な資金の一部(数%~数10%)が必要証拠金として拘束されるのみで、少額の資金で大きな取引が可能になります。しかし、レバレッジはメリットである一方、管理を誤れば大きな損失に繋がる諸刃の剣でもあり、予想と反対に価格が動いた場合、損失も証拠金に対して数倍に拡大し、投資額以上の損失を被る危険性もあります。

■長期保有には向かない

CFDは長期保有には向かないと言われます。

ロング(買い)ポジションを保有し続けると、市場金利の動向に基づいた金利相当額を日々支払う必要があります。これは、購入費用とは別にポジションを維持するためにかかるコストです。ロングポジションでは配当相当額を受け取れますが、この配当相当額よりも支払う金利相当額の方が大きくなる場合があります。その場合、配当相当額を受け取っているにもかかわらず、ポジションを保有するほどコストが積み重なり、利益を大きく目減りさせてしまいます。

一方、長期保有に向いていると言われる投資信託にも信託報酬という保有コストがかかります。信託報酬は投資家の資金口座からのキャッシュアウトは発生しませんが、投資信託の価格(基準価額)に反映されます。基準価額とは、その投資信託が保有する資産をすべて時価評価した合計金額(純資産総額)を、発行されている単位口数で割って算出される評価単価です。信託報酬はその基準価額から日々差し引かれることで間接的に徴収されています。

ここで、CFDの保有コストと投資信託の保有コストと比較してみます。

東京金融取引所が提供する「くりっく株365」の公式サイトによると、NASDAQ100指数に投資するCFDを1枚、2024年1月から1年間保有した場合の金利相当額は11,307円、配当相当額は1,524円と紹介されています。

ロングポジションで保有した場合、金利相当額は支払い、配当相当額は受取りとなり、差し引き9,783円のコストがかかります。1枚の取引金額はおよそ21万円なので、4.6%の負担となる計算です。

一方、NASDAQ100指数に投資するインデックス投資信託の場合、信託報酬は0.5%ほどとなっており(銘柄によって多少のバラツキはあります)、21万円分のインデックス投資信託を保有した場合には、単純計算で年間1,150円(税込)の負担となります。

なお、ショートポジションで保有する場合、金利相当額は受取り、配当相当額は支払いとなり、上記のコストは反転して収益となることがあります。しかし、ショートポジションは価格が上昇した場合の損失が理論上無限大となるため、価格ゼロが下限となるロングポジションよりも本質的なリスクが高い点に注意が必要です。

なお、上記の比較は過去の実績であり、将来の水準を保証するものでもありません。また、対象商品や計算期間によって結果は変わることはご留意ください。

3.CFDの活用法

このように、CFDは長期投資よりも短期投資に適した特徴を有しています。CFDの活用法として、コア・サテライト戦略におけるサテライト部分での利用が挙げられます。

コア・サテライト戦略とは、ポートフォリオを「コア(核)」と「サテライト(衛星)」に分けて運用する投資方法です。コア資産は名前の通りポートフォリオの中核であり、中長期的な資産の安定的な成長とリスクの低減を狙います。サテライト資産はコアを強化、補完するような位置付けで、運用資金の一部でより高いリターンを目指す一方、価格変動リスクの大きな収益機会を追求します。

ただし、特徴で紹介したようにCFDはリスクが大きい商品ですので、適切なリスク管理が求められます。相場環境によっては損失が発生する可能性がありますので、利益確定や損切りルールなどを明確に定め、冷静に実行できるような上級者、中級者向けとも言えます。

コアに当たる部分には、インデックス投資信託の積立を活用して堅実に資産を増やしつつ、サテライト戦略では、CFDを活用することで、さらなるリターンを追求するとともに、 下落局面でのリスクヘッジ といった柔軟な対応が可能になります。

4.普及に向けて

今後、CFDがより普及していくための課題を2つ言及したいと思います。

一つ目の課題は、投資リテラシーの向上です。CFDはレバレッジや多様な銘柄、売りが可能な高い利便性を持つ一方で、その特性ゆえに高いリスクも伴います。CFDが普及・拡大するためには、利用者の金融商品に対する正しい知識とリスク管理能力、つまり投資リテラシーの向上が必要です。レバレッジを単なる「少額で大きく稼げる手段」と誤解し、適切な証拠金管理やリスク管理(損切りルールなど)を怠りがちになります。各商品のリスク・リターン特性を比較し、自身のポートフォリオ戦略に適した銘柄を選択する、コストを理解し、取引頻度や保有期間がパフォーマンスに与える影響を把握する能力は、投資リテラシーの重要な要素であると考えます。

二つ目の課題は、税制上の煩雑さの解消です。CFDの利益は雑所得として申告分離課税の対象となるため、原則として確定申告が必要です。日本では、金融機関が税計算を行い源泉徴収してくれる「特定口座サービス」という制度がありますが、現状、その対象商品は上場株式、債券、投資信託等に限られています。日本証券業協会の特定口座数調査によると、延べ5,000万人が特定口座を開設し、そのうちおよそ95%が源泉徴収ありを選択しているそうです。源泉徴収のない特定口座や一般口座は、税額がすぐに徴収されない分、手元資金が増えて資金効率の面では有利になります。しかし、その利便性に多少の目をつむり、煩雑な納税作業を回避できる源泉徴収ありの特定口座を選ぶことは、現代でいう「タイパ(タイムパフォーマンス)」に優れていると言えるでしょう。

いずれにしても、確定申告の複雑さがネックとなり、CFD取引を敬遠している投資家も少なくないと考えられます。金融所得の一体化が進み、特定口座の計算対象商品がCFDまで拡大されるという制度的な後押しが今後期待されます。

5.金融機関から見たCFDの可能性

次に、金融機関視点でのCFDの可能性にも触れておきたいと思います。

2025年12月現在、株式や投資信託の販売手数料は少額化ないし無料化が進み、金融機関は手数料収入頼みという旧態依然としたビジネスモデルからの転換が求められています。新たな収益源として期待されるのが金融収益です。金融収益とは貸出金利の利息や有価証券の利息、配当金等の財務・金融活動から得られる収益です。CFDがもたらす金融収益には、スプレッド収入、ファンディングコスト(金利調整額)があります。

スプレッドは投資家がCFDを取引する際に提示される買値(Ask)と売値(Bid)の間に設定される差額のことです。投資家が取引を行うたびにスプレッド分の金額が金融機関の収益となり、取引量が多いほど金融機関に収益をもたらします。ファンディングコストでは金融機関が顧客から徴収する金利調整額と市場に支払う金利調整額の差額が収益となります。金融機関は市場金利をそのまま顧客に適用するのではなく、自社の収益となる幅(スプレッド)を設定しているため、顧客が支払いであれ受け取りであれ、この手数料分が安定的な収益につながります。

CFDは株式、株価指数、商品など多様な資産への投資を可能にします。これは金融機関が広範な投資ニーズに応えることで顧客基盤を拡大し、収益構造を多角化するための重要な要素となっています。

6.最後に

投資家のポートフォリオ戦略を高度化するだけでなく、金融機関の新たな収益源を確立するうえでも、CFDは大きな可能性を秘めています。

今後、CFDが日本国内の金融市場において、株式や債券と並ぶ主要な投資ツールとして定着することで、投資家の選択肢はさらに広がり、市場全体の流動性向上にも寄与することが期待されます。

なお、本コラムは投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行われますようお願いいたします。

※当コラムの内容は私見であり、FBSの公式見解ではありません。

コラム著者

青木 秀雄

青木 秀雄

(株)ファイナンシャルブレインシステムズ コンサルティング本部 証券業務コンサルタント