はじめに
生成AIが日本の資産運用業界に与える影響とその可能性について考察する前に、まずは生成AIと従来のAI(人工知能)技術との違いを理解することが重要です。
1. 生成AIと従来のAI技術の違い
大規模言語モデル(LLM)以前のAI技術は、画像認識やレコメンデーション(※1)など、特定のタスクに対して深層学習(Deep Learning)などの手法を用いて問題解決・改善を進めてきました。これらの特化型AIは、特定の目的において非常に高いパフォーマンスを発揮し、時には人間の能力を超えることもありますが、あくまで「舞台裏の装置」として機能しており、個人や一般企業にとっては、言葉として耳にすることがあっても、実際には遠い存在でした。
一方、生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)の最大の特徴はその汎用性です。人間が入力した文書の理解、音声の解析、文字起こし、異なる言語間の翻訳など、広範なタスクに対して単一のモデルで問題解決が可能となりました。この汎用性により、生成AIは個人や企業がWeb画面やスマートフォンを通じて簡単に操作できるようになり、急速に普及したと言えます。
2. 生成AIの資産運用業界における可能性
生成AIが日本の資産運用業界に与える影響は非常に大きいと考えられます。特に、業務の効率化や精度向上、新たなビジネスモデルの創出に寄与する可能性があります。これより先では、具体的に以下の分野における生成AIの活用方法について検討していきます。
a. 営業・マーケティング分野
営業やマーケティング部門では、生成AIが顧客対応やプロモーション戦略の立案に重要な役割を果たします。AIは顧客のニーズに応じた個別の投資案内を自動で作成したり、過去の顧客データを分析したりしてターゲット広告を配信することができます。
b. 運用フロント業務分野
運用フロント業務では、生成AIが市場分析やレポート作成、投資判断のサポートを行います。AIは過去の市場データを分析し、今後の投資戦略に関するシミュレーションを行うことができます。また、投資家向けのリサーチレポートを自動生成することも可能です。
c. 法務・コンプライアンス分野
法務やコンプライアンスの分野でも生成AIは重要な役割を果たすと考えられます。AIは契約書の自動解析や法的リスクの予測を行い、法務部門の業務効率化を支援することができます。
d. ESGおよびスチュワードシップ(受託者責任)分野
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の分野では、生成AIを活用して企業のESGデータを効率的に収集・分析することが可能になります。さらに、AIは投資家の価値観に基づいて、ESG基準に沿った投資ポートフォリオの構築を支援することができます。
なお、議決権行使業務においても、生成AI(LLM)を活用することで、議決権行使方針の作成や投資先企業の議案分析、まとめなど、議決権行使を判断するための資料準備に活用できる可能性があります。
e. バックオフィス分野
バックオフィスでは、生成AIが書類作成やレポート作成の効率化に貢献します。運用レポートやコンプライアンス報告書を自動化したり、会計処理や税務対応にも役立てたりすることが期待されます。
3. 結論
生成AIの登場により、日本の資産運用業界はこれまで以上に効率的で高度なサービスを提供できるようになります。特に、LLMの汎用性を活かすことで、運用フロント業務やESG分析、営業活動のサポートなど、さまざまな分野でAIが活用されるでしょう。しかし、AIが提供する結果やアドバイスに対して慎重に評価することも重要であり、適切な活用方法を見極めることが成功の鍵となります。
※1:顧客の行動履歴データを分析し、顧客の嗜好を明確にしたうえで、その顧客が好みそうな商品やサービスを薦めること。
※当コラムの内容は私見であり、FBSの公式見解ではありません。